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詩【 香りをまといて 】




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詩【 香りをまといて 】



曇り空の中で数多のトンボが
飛来していた日
桜の木はもう緑葉の中から
黄色い葉先へと移る気配に


歳月は流れるのだと
胸に重みが増すことを知る


夜の気配を映すように
コオロギは鳴くけれども
心に宿した風穴が閉ざされぬまま
夏にとどまりゆく想ひだけが
しがみつくように


微かな紅色の紅い実のように
しがみつくものへの慰めだろうか

愛しき人と同じ香りをまといて
風穴に匂ひを届けるけれども
ムスクの匂ひは
あたり一帯に広がり
うっすらと消えてしまいそうで
居残る香りがしがみつくように


声なきことの常がありすぎて
切なさのみ居残るのは
なぜだろう


どこまでいけば
ムスクの香りは風穴を塞ぎ
微かな気配を生み出して
くれるのだろう


届かぬままの声が
風穴を開けてしまって
声なきものがしがみつくように
振り払っても 振り払っても
居残るのは貴方と同じ香りが
うっすらとしがみつく


微かな香りの中に
貴方の面影が宿すようで
しがみついた香りが泣くようで


幾度となく同じ香りをまといても
両の手の先に風穴があることを
知り得るから


この香りを幾度つけたら
貴方に届くだろう


ムスクの香りは
さらに風穴を開いては
消え去るように広がりゆく


この香りを幾度つけたら
貴方に届くだろう

儚き願ひと知りながらも
貴方を想ふ香りをまといて

幾度も滴る花雫を胸に隠しながら


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by kazeumi-jun | 2017-08-19 01:20 |